通信制の恋
真面目に先生が黒板に書いていく文字を板書していると、左横からヒョイっと私の手元に何かが飛んできた。


見るとそれは紙切れで広げてみると、綺麗な字で「ごめん。そんな顔させるつもりは無かった」と書かれていた。


左隣と言えば、一人しかいなかった。


私がバッと天野くんの方を見ると、いつのまにか寝ていたはずの天野くんが机に突っ伏したまま私の方をじっと見つめていた。


私はノートの端のような紙切れと天野くんを交互に見ると、紙切れに更に文字を付け足した。


それを先生に見つからないようにヒョイっと天野くんの机の方へ投げた。


紙切れは上手く天野くんの元へと届き、しばらくすると再び紙切れが私の元へ戻ってきた。


そこには、私が書いた「天野くんが謝る必要はないです」という言葉の下に「黒沢さんにあんな苦しい顔させたのは俺でしょ?」と書かれていた。


図星といえばそうだった。


元不登校児だったことを話すのは私に取っては地雷で、話すときはいつもオブラートに包みながら言葉を濁して愛想笑いをするようになった。


それを天野くんは一瞬で見破ってしまった。


凄い、と感心しつつも私はノートの切れ端の紙切れに返事を書いていった。


そんなこんなで、私と天野くんの小さな紙切れのやり取りは授業が終わるまで続いた。


授業が終わると私が天野くんに投げたのを最後に返事が来なくなった。


「(あ…、終わっちゃった)」


終わってしまったことへの寂しさを感じつつも、私は次の授業の準備にとりかかった。


次の授業も同じ教室で、同じく天野くんも席を変えることは無かった。
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