通信制の恋
しかも、運の悪いことに、キーホルダーが入った袋の存在に気付かず、その袋を蹴ってしまう人までおり、キーホルダーは段々と私から遠ざかってしまった。


まるでそれが、今の私のようで、いずれ杏樹ちゃんや直に愛想を尽かれて、離れて行ってしまうのかと涙目になってきた頃、私の手首をパシッと掴まれた。


「何してんの、結」


「な、直…」

涙目になっている私を見て、直はぎょっと目を見開いた。


すると、ぐいっと掴んだ手首を引き寄せてそのまま私を直の腕の中に収めた。


「あの、直…?」


「どうして泣きそうな顔してんの。何があったの?」


「な、泣いてない…もん。」


「嘘。泣いてるよ。」


意地を張って泣いてないと言う私に抱き締めていた体を少し離して、私のことをじっと見つめると、その綺麗な人差し指で私の目元に触れ、涙を掬った。


「んで、なんで泣いてるの?」


「キー、ホルダーが…」

「キーホルダー?ん、ちょっと待ってな。」


いろんな人に蹴られて遠くに行ってしまったお土産やさんの袋を直が取りに行ってくれた。


「はい、これ?」


「うん、そう。ありがとう。直。」


袋の中身を開けて確認すると、どこも汚れていないペンギンとイルカがいた。


そのことにほっと一息ついて直に改めてお礼を言った。


すると、大きな歓声と共にイルカショーが始まった。
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