通信制の恋
「あ…、席、見つけないと…」


「いいよ。一番後ろで。ここから見よ」


席を探そうと動こうとした私の手を取った直はそのまま私を腕の中に閉じ込めて、イルカショーを鑑賞し始めた。


私は直の腕の中でもぞもぞと動き、体を向きを変えて、イルカショーが見えるように体を正面に向かせた。


「見える?」


「うん。見える。」


私が柵に手を乗せて興奮気味にイルカショーを見ていると、直の手が私の手に重なった。


「直…?」


手を重ねてきた直を不思議に思い、後ろを振り返ると…


ちゅっ



「!!!!!!」


「ご馳走さま」


振り向きざまに直は私の唇にキスをした。
ほんの少し触れるだけのキス。


顔から湯気がポーッと出そうなほどの勢いで真っ赤になった私は口をパクパクさせた。


「ははっ、結、魚みたいになってるよ」


「そ、そそ、それは直の所為でしょ!」


「俺はしたかったから、しただけ。」


「欲望に忠実め…!だ、誰かが見てたらどうするの!?」


「誰も見てやしないよ、みんなイルカに夢中だもん。」


涼やかな顔でイルカショーを見物する直に一本取られた私はむむむ…と仕返しの方法を考えながらイルカショーを見た。


結果、イルカショーの内容など頭に記憶されなかったが。
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