通信制の恋
チラリと一番前の席の"天野"くんの方へ視線を向けると、彼はまた顔を伏せて眠ってしまっているようだった。


また帰るときにさり気なく寝顔を拝んで行こうかと思ってた矢先、杏樹ちゃんが視界にドアップで入ってきた。


「ねぇ、結!この後時間ある?」


「え…?この後は親と一緒に帰るけど…」


「近くでお花見の屋台出てるみたいだし、一緒に行かない!?」


「今日はこんなきっちりした格好してるし、今日はやめとくよ…、ごめんね。」


「ちぇ〜…、確かにちょっと違和感あるか…」


ぶつぶつと何かを言っている杏樹ちゃんを他所に私は立ち上がって持ってきた鞄に資料やレポートを詰め込み、席を離れた。


「結、もう帰るの?」


「うん。親待たせてるし。じゃあ、またね、杏樹ちゃん。」


「あー!!待った待った!!連絡先交換しよ!すぐ終わるから!!ほら、スマホ貸して!」


帰ろうと教室の入り口へ向かおうとすると杏樹ちゃんが必死に呼び止めた。


再び杏樹ちゃんの元へ戻りスマホを取り出すと、バッと杏樹ちゃんにスマホをぶん取られてしまった。

「はい!これでおっけー!」


あっという間に私の手元に帰ってきた愛用のスマホを眺めていると連絡先の欄に"栗田杏樹"が追加されていた。


その嬉しさから少し頬が緩んでいると、杏樹ちゃんがじっとこちらを見ていた。


「な、何?杏樹ちゃん…」


「いや、結、意外と原石だったりして…」


「原石?」


「いや、こっちの話!ほら、親待たせてるんでしょ?またね!」


杏樹ちゃんがぼそりと呟いた言葉におうむ返しをすると杏樹ちゃんは言葉を濁した。


半ば強引に教室を追い出された私はそのまま親との集合場所である廃墟と化したガソリンスタンドまで急いだ。
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