通信制の恋


「今日は教科書取りに行かなくていいの?」


「あ"っ!そうだ、教材引き取りがあったんだった…!もう一回行ってくる!」


ガソリンスタンドで母親と再会すると、私が手ぶらだったことを不思議に思ったのか母親が大事なことを思い出させてくれた。


そうだ、放課後に教科書などの教材の引き取りがあったのだ。


もう一度学校に戻り、筆記用具と引き取り用の用紙を用意しようと思ったら筆記用具もなかった。


入学式後の教室での先生の話の時に筆記用具を出したのだった。


「(て、ことは3階の教室の机の中!?)」


私はげんなりしながら再び3階まで階段を駆け上がった。


「はぁっ…はぁっ…」


今日で何回も3階までを行き来したせいか疲労感が半端なかった。


ゆっくりと呼吸をして、1-Bとでかでかと髪が張り出された教室へと戻るとそこには、まだ生徒がいたようだ。


ガラッと教室の扉を開けると、そこには、一番前の席でぐーすかと寝ていた天野くんだけがいた。


「(まだ寝てる…)」


他人の睡眠を妨害しないように静かに自分の席に行くと、机の中にあった筆記用具を手に入れることができた。


その喜びで少し身体を動かしてしまったら、ガタリと隣の机に身体をぶつけてしまった。


やばいと思った時には遅く、惰眠を貪っていた天野くんが顔を上げた。


「誰」


「(こっちのセリフなんですけど!)あ、いや、筆記用具を忘れて、取りに来ただけなので…!そ、その、ごめんなさい!さようなら!!」


半ば逃げるようにブンブンとヘドバン並みに頭を下げて教室を後にすると生徒玄関近くで行われていた教材の引き渡し場所へ向かった。


「はぁっ…はぁー…(声もかっこよかった…)」


ゆっくり呼吸しながら先ほどの天野くんの声を脳内再生すると、ぼぼぼぼと顔に熱が集中していくのが分かった。
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