通信制の恋
私が教科書を受け取りに行った頃には、人はまばらで、ほんの少し列に並んだだけで、教科書を受け取ることができた。


「お、重い…」


受け取った教科書は両手で持ってゆっくり歩くので精一杯だったため、学校から出て母親が待つガソリンスタンドだった場所まで行くのに苦労するだろうと溜息をついた。


すると、


「貸して」


ひょいと後ろから手が伸びてきたかと思えば私が苦労していた教科書の重みがスッとなくなった。


「え、えっ…!?あの…、いいです!大丈夫です!」


私の教科書を片手で軽々と持っていたのは先程まで教室で寝ていたはずの天野くんだった。

「どこまで持ってくの」


「いや、あの、私の話を…」


「人の好意を無駄にしないで。ほら、行くよ」


私の話を聞こうともせずスタコラサッサと歩き始めた彼の後を私は慌てて追った。


「んで、どこまで持ってくの。」


「…学校を出て左に曲がって、真っ直ぐ行ったとこのガソリンスタンドです…」


「ん。」


私が不服そうに言っても、効果がなかったようで、彼は短く返事をすると、自分の分の教科書も持っているというのに、私の分の教科書も軽々と持って歩いていた。


「(やっぱ男の子なんだな…、力持ち…)」


ほえー、と感心しているといつのまにかガソリンスタンドまで来ていた。


「あら、何男の子に運んでもらったの?お礼を言いなさい!」


「あ、あの、ありがとうございました!助かりました!」


「ん、じゃ。」


真っ直ぐの道を歩いてきたからか母には私と天野くんが一緒に歩いてくるのが見えていたのだろう、バシッと背中を叩かれて、私は急かされるようにお礼を述べた。


これまた二度目の短い返事をすると、天野くんはそのまま駅の方へと歩いて行った。


「それにしてもカッコいい子だったじゃない、どうしてあんな子が?結、何かしたの?」


「眠っていたのを邪魔してしまったくらい…、でも怒るならまだしも、手伝ってくれるとは思ってなかった…」


ぽけーっと私はいつまでも天野くんの背中を見つめ続けたのだった。
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