きみのための星になりたい。



「──ねぇ、凪?聞いてる?」

「……っ、ああ、ごめん」

本日最後の授業を受けていた私だったが、いつのまにかボーッと昨日の出来事を思い返していたみたいだ。私の目の前には、その当人が不思議そうな表情で立っている。

「もう、凪ってば。どこか別の世界へ行ってたでしょ?授業、もう終わったよ」
「いや、ちょっと考え事してて……」
「じゃあ、さっきの最後の部分、聞いてなかったんじゃない?テストに出るって言ってたよ」

私の書きかけのノートに視線を落としたあかりは、少しだけ文字を目で追うと、「やっぱり」と声を漏らした。

「ここ、途中で終わってる。塾まで少し時間あるから、私のノートささっと見る?」

トン、と指先で文字の終わりを指差して首を傾げたあかりは、「ちょっと待ってて」と自分の席へ戻ろうとする。だから私は短く声を出し、あかりの動きを止めた。ただ、その後の言葉が上手く出てこない。

あかりに迷惑をかけてばかりだなあ、私。

今日も自分のせいでノートがとれなかったのに、また私はあかりのお世話になろうとしている。それが不甲斐なくて、あかりのことを引き止めたのに。

〝申し訳ないから、ノートはいいよ〟って言いたいけれど、ここは素直に写させてもらった方が返ってあかりの迷惑にならないんじゃないか、と正反対の感情が私の中を気持ち悪く渦巻く。とことん面倒だなあと自分に嫌気がさした。

「……凪?」
「……ううん、なんでもないよ。ごめんね、あかり。ノート、写させてもらってもいいかな」

心配そうに私の顔を覗き込んだあかりは訝しげな表情を見せていたけれど、私の言葉を聞いた数秒後、小さく頷いて自分のノートを持ってくる。

「ありがとう」

きちんとお礼を言い、彼女のノートを借りた。あかりに向けた今の笑顔が、不自然じゃなかったらいいなあと心の中で思う。

シャーペンを握りしめ、無言でノートをとる私。そんな私の手元を静かな視線が追う。きっとあかりも、ここ最近の私に思うところがあるのかもしれない。ひしひしと伝わってくるあかりの視線を感じながら、私は数分間ほど、居心地の悪い時間を過ごした。

この日はこのまま二人で塾へ向かい、いつも通り柊斗と悠真くんと共に塾の授業を受ける。

ちらりと視線を横にやれば、そこにはペンを片手に真剣な表情で真っ直ぐに先生の解説を聞くあかりがいて。私はあかりからそっと目を逸らすと、周囲にバレないように小さく息を吐いた。

あかりは私にとって、何にも変えられない友達だ。自分の思っていることを上手く言葉にできない私に代わって、いつもあかりは私の意見を少しずつ引き出してくれた。こんな私と、そばにいてくれた。

私は、これからもあかりと一緒にいたいと思う。でもそれとは裏腹に、しつこいようだが、私の中にはあかりと一緒にいるのが申し訳ないという気持ちがあるのだ。

きっと、私がこんな気持ちを少しでも持っている限り、いつかはあかりにそれが伝わり、衝突してしまう日がくるだろう。または、私が余計なことを口にして自滅してしまうのが先か。


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