きみのための星になりたい。
柊斗はとても心配そうな顔をしていて、私もあかりが今そんな状況だからこそ柊斗の気持ちがよく分かる。それに、私自身も悠真くんのことが気になって仕方がない。
「あかりちゃんは?」
「あかりも、熱が昨夜出たらしくて今日は休み」
唇を噛み締めて呟いた私の言葉に、柊斗は「そっか」と小さくこぼした。
今の私たちには、あかりたちに励ましのメッセージを送ったり、ふたりが早く治るように祈ることしかできないけれど。それでもきっと、この思いは必ず彼女たちに届くはず。
私はそっと目を閉じると、心の中で〝彼女たちが早くよくなりますように〟と強く願った。
そしていつも通り二時間の授業が始まり、私と柊斗、それから他数名の生徒は真剣に問題を解いていく。
今日は数学で、内容は私の苦手な関数がメインになっている。途中であまりの難しさに嫌気がさし、考えることを放棄してしまいそうになったが、今日の先生の説明がとても分かりやすく、自力で解けるようになってからはスラスラとペンが動く。
気付いたときにはもう授業終了の時間になっていて、あっという間に時が過ぎていったことに驚いた。
「凪、お疲れ。外まで一緒に行こう」
「あ、うん。ちょっと待ってね。あと筆箱だけしまうから」
柊斗に声をかけられ顔を上げると、彼はもう帰る用意がバッチリできている。それを見た私は、慌ててまだ机上に出ていた筆箱をトートバッグに詰め込む。
「お待たせ、柊斗」
椅子から立ち上がりながら柊斗にちらりと視線をやると、柊斗は優しい表情で頷いてくれた。
夜街を流れる風はやや生温く、じっとりと身体の芯から汗を誘う。思わず、来ていたティーシャツを肩まで捲り上げた。
柊斗は電車でここまで通っているため、ここでお別れになる。
「じゃあ、またね」
「うん。……あ、凪。風邪や熱中症には気をつけるんだよ」
「分かった。柊斗こそね」
そんな挨拶を交わし、私たちは互いに手を振りあった。そして私は柊斗に背を向け、自分の帰路を辿り始める。……はずだった。
「あら、柊斗」
柊斗の名前を呼ぶ誰かの声が耳に届き、踏み出した足を思わずぴたりと止める。
誰……?
そう思い振り向いた私の視線の先にいたのは、私の母と同年代だと思われる長髪の女性と、制服的に中学生の女の子だった。
もしかして、と私の中である予想が浮かび上がる。
「……母さん。と、日菜か」
小さくこぼれ落ちた柊斗の言葉を聞いて、ああ、私の思っていたこととあっていたのだと悟った。