きみのための星になりたい。
「俺は、柊斗。こちらこそよろしくね」
そう言ってやわらかい笑みを浮かべ、目を細める彼。
「あ、……凪ちゃん、だっけ?」
今度はあかりの横にいた私に目を向け、にこりと微笑んで私と目を合わせてくれる。
「名前……」
「あ、そっか。……実はね、俺も人見知りだからさ。さっきからチラチラと悠真との会話を聞いてたんだ。盗み聞きするような真似してごめん」
「う、ううん、全然いいよ。私は吉末凪。……柊斗くんだっけ、よろしくね」
盗み聞きをしてごめん、と律儀に頭を下げる柊斗くんを見て、慌てて、気にしてないよということを伝える。そしたら柊斗くんはきゅっと目尻を落として、安心したような笑顔を浮かべた。
その笑顔はとても綺麗で、見ているこちらの心がそっと解されていくような、そんな優しい笑顔。……とても、穏やかに笑う人だなあと思った。
「……うん、よろしく」
伸ばされた右手に、私もゆっくりと手を伸ばす。握手をしているように重なり合った掌。彼の手はゴツゴツと骨張っていて、大きくて、男の子なのだと思わざるを得ない。
人見知りで、あまり他人と深く関わることが得意じゃない私。誰かに否定されるのがなんとなく怖くて、自分の思っていることや感情を表に露わにするのが苦手だった。
だから同じクラスの男子とも、必要最低限に少し会話を交わすことはあったものの、男の子の手を握るなんていつぶりだろうか。それもあってなのか、身体が強張り、緊張のせいで頰が熱くなるのを感じる。
「……うん、こちらこそよろしくね」
だから、再びそう口にするのが精一杯だった。柊斗くんはそんな私を優しく見つめてくれている。
結局この日は、初めての授業を終え、そのあとはあまり四人で会話をすることなく、帰りの挨拶をしてそれぞれの帰路につくことになった。
やはり学校の授業のあとに塾に通うとなると、少しばかり疲れる。きっと身体が慣れてないこともあるのだろう。そんなクタクタの身体を引きずりながら歩き、自宅のドアを開く頃には、腕時計の指す時刻はもう二十時にもなっていた。
「ただいま」
玄関でローファーを脱ぎ、靴の向きを丁寧に揃えてリビングに向かう。
途中、カレーライスの匂いが鼻に届き、今日の夕飯はカレーライスか、と知らないうちに頰が綻ぶ。私は幼い頃からカレーライスが大好きなのだ。
「お母さん、帰ったよ」
リビングに入って一番に目に入ったのは、カレーライスをコトコトと暖めるお母さんの後ろ姿。お母さんはこちらに振り向くと、やんわりと頰を緩めた。
「あら、おかえりなさい。塾はどうだった?ついていけそう?」
「うん、なんとか。先生も丁寧に解説してくれるし、分からないところも自分が理解できるまで教えてくれるよ。それに、あかりも一緒だから安心」
「あかりちゃん?」
あかりの名前を出すと、不思議そうに首を傾げるお母さん。そうか、お母さんは色々タイミングが合わず、まだあかりに会ったことがないんだ。
中学の頃からの友達だよ、と補足しようとしたところで、お母さんが何かを思いついたように「ああ」と声を漏らした。