きみのための星になりたい。
柊斗からはすぐに返信がきて、明日の十五時から約束を取り付けた。集合場所は、あの堤防。
駅まで迎えにきてくれると柊斗は言ってくれたけれど、一度向かった場所だし、複雑な道ではない。行き方はきちんと覚えている。だから柊斗の申し出を断り、自分でそこまで向かうことにした。
……きっと、大丈夫。私がやるべきことは決まっている。
あの日柊斗が私に寄り添ってくれたように、私も柊斗に寄り添えばいい。
何も話してくれなくても、それでいい。
ただ同じ時を過ごして、同じ景色を眺めて。少しでも柊斗が元気になってくれたら、心が軽くなってくれたら。私は、ただそれだけでいいから。
翌日、私は電車に揺られ約束の時間に堤防に向かう。
駅へ着いてからは以前の記憶を呼び戻し、ひとつひとつ確実に道を辿る。細い路地を抜ければ、ひらけた場所に出ることができ、そこはもう堤防だ。
その向こう側に広がる、どことなく懐かしい青色の景色に頰が緩んだ。
「凪」
柊斗の姿が見えなかったから、先に堤防に腰掛けて待っていようと思い腰を下ろしたところで、愛しい柊斗の声が聞こえる。
振り向けば、柊斗は片手をあげながら私の方へ向かってきていた。
「凪も今来たところだった?」
「うん。本当にさっき来たところ」
「それならよかった」
安堵したように笑った柊斗は、堤防の上に軽々上ると、ストンと私の隣に腰を下ろす。
上はホワイトのパーカー、下は濃い青のジーンズを着ていた柊斗は、心なしかいつもより幼く見える。普段は制服姿しか見ることがなく、私服は指折り数えるほどしか見たことがなかった。けれど夏休み期間中は私服で皆来ているから、柊斗の私服姿にもようやく慣れてきたところだ。
「さっきまで太陽が覗いてたのに、あっという間に曇ったね。今日、雨降らないといいけど」
空を見上げ呟いた柊斗に、私もコクリと頷いた。
「一応、今日は一日中曇りらしいけど、空も暗くなってきたね。折りたたみ傘は念のため持ってきたけど、降らないにこしたことはない」
そう口にすると、私は柊斗から目の前に広がる景色に目をやる。
今日は曇り予報で、洪水確率は三十パーセントだったものの、雨が降る可能性が全くないわけではない。さっきまで束の間晴れていた空も、今は雲が太陽を隠し、暗く濁っているみたいだ。
それに伴い、海も晴天の時ほど煌めいてはなく、空と同じ暗い色を映している。けれど綺麗じゃないといえばそれは嘘で、こんな日の海もどことなくいいなあとぼんやり思った。
「……ここ、本当に綺麗だよね」
「うん。凪がこの場所を気に入ってくれてよかった」
そんな会話をのんびりとして、その後はお互いまったりと流れるこの風景を無言で眺める。