きみのための星になりたい。
触れている柊斗の背中は、広いように見えるけれど、想像以上にとても小さい。
──ねぇ、柊斗。柊斗は容赦無く向けられる理不尽な言葉のナイフを、こんなにも小さな背中で耐え続けてきたの?
自らを生んだ大切な存在である母から、毎日のように地獄のような言葉を浴びせられ、悲しみも、苦しみも、怒りも、後悔も。それら全てを一人きりで背負ってきたの?……そんなの、悲しすぎるでしょう。
柊斗の優しい心の裏側に隠れていた本当の気持ちを想像すればするほど余計に胸が痛くなり、冷たい雫が頰を流れ落ちる。
限りなく広い空は、相変わらず暗雲に覆われていて。このまま雨さえ降ってくれたら、私の涙だって〝雨だよ〟と誤魔化せるのに、と馬鹿なことを考えてしまう。
「俺なんかのために、泣いてくれてありがとう」
一瞬強く吹いた潮風に運ばれて私の耳に届いた柊斗の声色は、どことなくスッキリとしていた。
俺なんか、じゃない。
柊斗だから、誰よりも強く心優しい柊斗だから、私はこんなにも苦しいんだ。柊斗は間違いなく、素敵な人。自分のことよりも周りにいる大切な人のことを考えて行動できる、そんな綺麗な心を持った人。
「……俺、いつからか、泣きたいと思っても泣けなくなったんだ。だから、凪がこれだけたくさんの涙を流してくれて、俺も少しスッキリしてる。本当にありがとう」
柊斗は未だ止まらない私の涙を親指で拭うと、頭に触れ、私を落ち着けるようにゆっくりと撫でてくれる。
そのおかげか、込み上げていたものも次第に止まり、泣き止む頃には柊斗もいつもと変わらない笑顔を見せていた。
……ああ、これじゃあダメだ。柊斗のことを助けるどころか、私が今回も助けられているじゃないか。
以前、私が同じように溜め込んでいたことを柊斗に打ち明けた際、彼は救いになるような台詞をたくさんくれた。けれどそれとは反対に、私の口からは柊斗のように気がきく言葉はひとつも出てこない。
……私はただ柊斗の背中に触れていた手を離さず、撫でながら。柊斗にぴったりと寄り添うことしかできなかった。
見上げた先には、雲の白と空の青を掻き乱されたように濁った灰色の景色。今にも雨粒が降り出しそうな空は、まるで柊斗の心をそのまま映し出しているようで。泣きたいけれど泣けない、その言葉がぴったり合うような気がした。
この後私たちは一時間ほどずっと肩を寄せ合い、ただこの暗く泣きそうな風景を眺めていた。