きみのための星になりたい。
第7章 今の私にできること
あれから数日が経った。
ここ最近は真夏の割に涼しいことも多く、例年より過ごしやすいかもしれない。とはいえ、やっぱり八月の中旬。気温が上がる日はグッと上昇し、三十度を軽く超えることも多々ある。そんな日は外にいるだけでじっとりと汗が滲み、出かけるのが億劫になるほどだ。
結局あの日は、柊斗と一緒にぼんやりと景色を眺めた後、いつも通りまたねと解散した。その時の帰る間際の柊斗の顔が僅かに晴れていたように見えて、私がここに柊斗を連れ出した意味が少しはあったのかなあと思うことができた。
柊斗とは昨日一度顔を合わせたけれど、いつも通り何ら変わらない。
あかりや悠真くんも交えてなんでもない話をしては、笑いあって。そんな時間を過ごしていると、柊斗の抱える大きすぎるものをふと忘れてしまいそうになる瞬間がある。でも、やっぱり忘れられないんだ。
数日前に見た柊斗の優しい笑みも、語られた真実も、背中の小ささも。私の中からいなくなってはくれない。
私はどうすればいいのか、どうすべきなのか。柊斗から話を聞く前の私と同じ。柊斗のことを助けたい気持ちは膨れ上がるばかりで、でもそれを対処する方法が見つからなくて。
柊斗の過去を知った日から、毎日のように考えているけれど、答えはなかなか素直に姿を現してはくれない。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
時計の針が夜十時を少し回った頃。リビングでお笑い番組を見ていた私だが、今日はもう眠たくなってきたし、二階に上がろうかなあと思い始め、テレビの電源を落とす。
その時、甘えたがりな可愛い声が聞こえたと同時に、ソファに腰掛けていた私の膝の上に小さな身体がちょこんと乗っかった。
「蓮。どうしたの?」
「あのね、歯磨き終わったよ。お母さんにしあげもしてもらったよ。僕、えらい?」
その正体は、蓮だった。蓮はお母さんと歯磨きをしていたらしく、蓮がリビングに戻ってきてから数秒後、お母さんも姿を見せる。ちなみにお父さんは、明日早朝から仕事に出発しなければいけないらしいから、もう今は夢の中だろう。
「ねぇ、僕、えらくない……?」
ほんの少しお父さんのことを考えて返事が遅れてしまった私を、蓮が寂しそうな目で見上げてくる。
その捨てられた子犬のような瞳がなんとも言えないくらいに可愛くて、やんわりと頰を緩めると、思わず蓮の身体をきつく抱きしめていた。
「蓮、えらいね」
「えへへ。お姉ちゃんにぎゅーされちゃった」
私に向かい合うように膝の上に跨っていた蓮は、私の背中に小さな両腕を回し、一生懸命に抱きついてくる。その行為ですら、愛おしくて仕方がない。