きみのための星になりたい。

「中学の頃から凪と仲良くしてくれてる子ね。お母さんもいつかあかりちゃんと会ってみたいわ。……あ、そうだ、凪。塾は火曜日と金曜日だったかしら?」
「うん、火曜日と金曜日に通うことにしたよ」
「そう、じゃあその曜日はこのくらいの時間になるって思っておくわね。……行くからにはきちんとお勉強するのよ。あまり悪い成績はとらないように」
「うん、分かってるよ」
「まあ、凪は優秀だから、お母さんそんな心配はしてないんだけどね」

そう言って口元を緩めたお母さんは、キッチンに向き直り料理の仕上げに取り掛かり始めた。

私も、自分の荷物を片付けてこよう。そう思い、手に持っていたスクールバッグを肩にかけ、二階にある自分の部屋に向かおうとした、そのときだった。

「お姉ちゃん、おかえり!」

元気いっぱいの声と共に、私の足にガバッと抱きついてきた小さな男の子。きらきらとした瞳で私を見上げるその顔は、とてもうれしそう。

「蓮(れん)、お風呂に入ってたんだね」

私は男の子の名前を呼んで、そっと頭を撫でる。髪の毛はまだ濡れていて、上半身もまだ裸。それを見て、お風呂に入っていたのだとすぐ分かった。

「うん、お父さんとお風呂に入ってたんだ」
「そうなんだ、よかったね」

蓮は私の弟で、この間六歳の誕生日を迎えたばかり。近所の保育園に通う、遊び盛り真っ只中の年長さんだ。

「おーい、蓮。早く身体拭けよ。風邪引くだろ」
「あ、お父さん。ただいま」
「おお、凪、帰ってきてたのか。おかえり」

廊下の突き当たりにある浴室から姿を現したのは、お父さんだった。お父さんの髪の毛も湿っていて、毛先からは雫がポタポタと垂れている。それに気がついたのか、お父さんは慌てて手に持っていた長タオルで床を拭いた。

「あ、ちょっとあなた、なんで蓮の身体をちゃんと拭いてあげなかったの?このままじゃ風邪引いちゃうじゃない」

そうこうしているうちにお母さんが廊下に姿を見せ、蓮の格好を見るなりそう口にする。お母さんの顔は酷く慌てていて、そのままの足で浴室まで行くと、バスタオルを手に持ち、それを蓮の身体へふわっとかけた。

「もう、どうするの。蓮がまた風邪でも引いたら、大変なんだからね」
「ごめんごめん。身体を拭く前に蓮が飛び出していったものだから」
「しっかり見ててよね。しんどい思いをするのはあなたじゃなくて、蓮なのよ。……ね」


そう言って蓮の頭をポンと撫でたお母さんは、私と目を合わせると、申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめん、凪。帰ってきたばかりで申し訳ないんだけど、蓮の髪の毛と身体を拭いてくれない?お母さん、料理をお皿に盛ったりしなくちゃいけなくて」
「ああ、いいよ。服も着せたらいいよね?」
「そうそう、あと、髪の毛もできれば乾かしてほしいわ。凪は本当にいつもお手伝いしてくれるから、お母さん、助かってるわ」

お母さんは私にそう言い残してキッチンへ戻っていく。

お父さんも「蓮はお姉ちゃんの言うことはきちんと聞くもんな。凪、頼んだぞ」と私を見てにこりと笑い、床を拭いたタオルを手に持ち洗濯機の方へ向かった。
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