春の惑い

  あれは四年前の初秋の頃だった。同じ予備校に通う女子学生と補習授業の際に

 何度か目が合う内に、強く心が惹かれるようになった。たまたま席が隣同士にな

った時、彼女が消しゴムを落としたので、僕が直ぐに拾って上げたのがきっかけ

で言葉を交わすようになった。名前を黒田ゆかりさんと言い、都内の有名私立女

子高校に通う才色兼備な女性だった。まあ、どちらかと言えば、地味な穏やかな

女性だった。
  
  そんなある日、予備校が終わった後、僕の方から声をかけて、軽くデートの

 様な散歩に誘った。僕が自然な感じで接したせいか、彼女は快く応じてくれた。
 
 少し遠回りをして、日比谷公園まで行こうと言うことになった。繁華街を通り
 
 抜けて公園に近づくと、辺りは、もうすっかり夜の帳(とばり)に包まれていた。
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