過ぎた時間は違っても
唯織は病気が早めた寿命を知っている。だから、恋人を作って悲しませる人を増やしたくないんだ。早いと知っていながら、長く生きられないと知っていながら付き合いたくないと思っているんだ。

「ただいま。・・・どうしたの?」

「ごめんなさいっ!!見るつもりはなかったのっ!!」

唯織の家の中に入ると、美幸さんと歩幸さんが一冊のノートを差し出しながら頭を下げて謝っていた。皆、きょとんとしていて状況が掴めていなかったけれど、唯織は違った。気にしなくて良いと笑いながらノートを受け取ると少しだけ悲しげな顔をして机の中にしまっていた。
一番騒がしい二人が静かなせいか、夕飯の空気がおかしかった。重たいというか、よどんでいるというか。押し潰されてしまいそうだった。
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