過ぎた時間は違っても
痛め付けすぎて血が出ている羽季の右手を両手で包み込みたかったけれど、私の手は羽季の手をすり抜けて部屋の向こう側にある廊下に出てしまった。
そっか、もう触れる事は出来ないんだ。羽季に触れられない事実を知って、私はやっと涙を流す事が出来た。もう誰にも触れられない、抱き締める事も抱き締められる事もない。いつも当たり前のように出来ていた事が一切出来なくなってしまったんだ。もう羽季の安心する体温も、両親の優しい笑顔も感じられなくなるんだ。

「もうやめろ。もういないんだよ」

私の代わりに羽季を止めてくれたのは明穂の兄だった。両手を動かないよう掴んでそのまま羽季を後ろから抱き締めてくれていた。
もう会えない、もう触れられない。泣き叫ぶ羽季のそばで私はただ泣く事しか出来なかった。届くはずのない謝罪を何度も呟いた。そのうち、私のいる部屋は元の白い部屋に戻って羽季の姿は見えなくなってしまった。
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