あなたに捧ぐ潮風のうた
それから数日後、通盛は薄墨の衣服を着て盛子の喪に服しつつ、小松家にやってきていた。
越前国の様子を越前国主(国司を任命する権利を持つ者)の重盛に報告するためである。
というのは建前で、床に伏した重盛の見舞いが主だった。
「お身体の調子は如何ですか、重盛様。……いえ、出家なされた今はもう、入道様とお呼びするべきでしょうか」
重盛は病を理由に官を辞して先月に出家した。
気丈に振舞ってはいるが、彼は最早この俗世を見限ったのだと通盛は見ている。
出家をしたからといって、病を患っている重盛が一人山奥に隠れ住み、仏道修行に励むということはもう出来ない。
ただ、床に伏せて療養の暮らしを強いられている。