あなたに捧ぐ潮風のうた




 平家を藤原氏に並ぶ一門に引き上げたのは、誰もが知る前(さき)の太政大臣、平清盛入道である。

 重盛の父である清盛は、本来、身分に拘(こだわ)らず、家人にも優しい人格者である。

 家人が何か失敗を犯しても笑って流すなど、度量の大きい人だ。

 何もせずとも、周りが放って置かない魅力を持っている。

 父の異例な出世を妬む人間は山ほどいたが、父は彼らの嫉妬を物ともせず、武士としては初めての太政大臣の地位についたのだ。

 それだけではなく、宋との貿易を開くなど、神仏に愛されている人だ。

 その嫡男、平重盛。

 強く魅力の溢れた偉大なる父の下に生まれたことは、何よりの幸運であろう。

 母である高階基章(たかしなのもとあき)の娘は親の官位もあって身分が低く、二人の息子を産んで直ぐに此の世を去った。

 母に代わる継室は、平家の一門である平時子。

 彼女は重盛の宗盛以下の弟たちを産んだが、幸いに重盛は異母弟たちに慕われていた。

 幾つかの戦を勝ち抜き、自分の才覚と父の後押しで高い地位に登りつめた重盛だったが、直ぐに現実の厳しさと父の秘めた心を知ることになった。

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