あなたに捧ぐ潮風のうた
それから数日間、孝子は父の助言に従い、上西門院に仕えるために必要な道具を取り揃えた。
父が用意してくれた女房装束、檜扇、その他生活に必要な細々としたもの。それらは全て値の張る一級品であり、今回の一件に懸ける父の強い意気込みをひしひしと感じとれる。
「父上様、かように素晴らしい物を準備したいただき、ありがとうございます」
「これしき、大したものではない」
父はあくまでも澄ました顔で言う。
しかしながら、それを額面通りに受け取ってはならないことを孝子は知っていた。
娘に粗末な道具を持たせた日には、我ら一家は宮中の笑い者になるか、逆に虐げられているのか、と同情を寄せられるだろう。
あるいは、女房にまともな格好もさせてやれないと囁かれて、主の上西門院の恥となってしまうか。
馬鹿馬鹿しいが、孝子の容貌が一家の顔となり、孝子の振る舞いが一家の行動となる場合も考えられる。
持ち物ごときで家の評判を落とすのは父の本意ではないだろう。