あなたに捧ぐ潮風のうた
「……皆、揃ったようだな。いざ最後の別れを申すとしよう」
清盛の声を合図とし、この場に集まった平家の者たちは、順番に腰を上げて重盛の眠る部屋に向かった。
通盛も同じく、父教盛の後につづいて部屋に向かう。
屋敷の一角にあるその部屋に、重盛の死した体は静かに寝かせられていた。
清盛は涙を堪えきれずに啜り泣き、その妻の時子は義理の息子である重盛の亡骸を茫然として見つめている。
通盛は眉をひそめた。
このような事を故人の前で独白するのは、誠に罰当たりであるが、重盛が逝去したことで、清盛と後白河、さらには平家と朝廷の関係悪化に歯止めがかからなくなるかもしれない。
最も恐れるべきはそのような事態である。
重盛はもはや何も答えない。
悲しいほどに白い死者の顔を見て、通盛はゆっくりと膝を折り、遠慮がちにその頬に触れた。
死した者に触れるのは初めてではないが、予想していたよりも更に冷たい頬に、通盛の心の臓は大きく大きく飛び跳ねる。
当たり前ではあるが、そこに求めていた温もりは無かった。
(……重盛殿は本当に亡くなられたのだな)
何とも形容し難い気持ちで重盛と彼の家族を見つめた。