あなたに捧ぐ潮風のうた
親は勿論、重盛の長男である維盛(これもり)もまた、悲しみに暮れていた。
類い希なる美貌の持ち主、光源氏を思わせる優美な容貌。
だが、今は涙を堪え、父の最後の姿を目に焼き付けているようである。
父と同じく温和な性格のために、悲しみを人には見せまいとする健気な心が見て取れ、通盛は俄かに胸が痛くなる。
「維盛殿……」
「……失態をお許し下さい」
通盛の視線に気付いた維盛は、袖で涙をそっと拭い、赤い目を通盛に向けた。
通盛は咄嗟に言葉が出ず、静かに首を振って視線を彷徨わせる。
この薄倖の美少年が、平家嫡流として平家一門を取り纏めていくのだ。
そう思うと別の不安が胸を過ぎる。
──果たして、まだ経験の浅い彼が平家を率いる存在としてやっていけるのだろうか。
死者の幻影に縋ってもどうしようもないことは明白。
残された者たちは悲しみに打ち勝ち、自らの手で道を切り開いていかなければならないのだ。
維盛殿をお支えしなければ、と通盛は思った。