あなたに捧ぐ潮風のうた
様々な人が涙ぐみ、別れを告げられた重盛の体は、湯灌(ゆかん)後に僧侶たちの手によって納棺された。
葬儀では、重盛の冥福を祈る読経が行われ、人々は哀しみに暮れた。
後白河法皇や懇意にしていた者たちが次々に顔を見せ、真摯に手を合わせて重盛の成仏を祈る。
如何に重盛が人々から愛されていたのか、参列した者たちの表情を見れば分かる。
葬儀が終わると、火葬場に向かうために小松邸の裏門から出棺し、火葬に処された。
万人に愛された重盛。
彼の体を一日中燃やして立ち上る一筋の灰色の煙は、人々の暗い心とは裏腹に晴れた空へ吸い込まれ、溶けていく。
きっと、芝を燃やす煙を見たときでさえ、彼のことを思い出すことになるだろう。
「父上……」
維盛の静かな呟きが聞こえた。
彼の兄弟たちも父の最後を見守る。
骨に化した父を拾い集めながら、彼らは一体何を考えたのか。
ただ、彼らは既に泣いていなかった。
平家の為に明日を見据え、必死に涙を堪えていた。