あなたに捧ぐ潮風のうた
(平家、か……)
その名を聞くたび、時に瞼の裏で薄桃色の桜が甦り、春の心沸き立つ匂いと共にうぐいすのさえずりが聞こえてくるような思いがする。
桜はとうの昔に葉を付けていた。今や色の変わったそれも秋風にそよいでいる。
「小宰相様はどなたがお好きなのですか」
小宰相がぼんやりと春の幻影を眺めていると、突如、隣に座っていた女房が、笑みを深めて尋ねてきた。
小宰相は、何の話か分からず首を傾げる。
すると、その女房は赤らんだ頬に手を当てた。
「わたくしは桜梅少将様にございます。あの清らかでお美しいお姿……惚れ惚れ致します……」
はあ、と悩ましげなため息が漏れる。
それを聞いた小宰相は、一つ思い当たるものがあった。
平家の公達、姫や婿、家人の全てを花や草木に喩えるという、近頃、都の女に広まっている遊びである。