あなたに捧ぐ潮風のうた


「上西門院様、法皇様が……!」

 突如、切羽詰まった一人の女房の声が聞こえた。

 それは部屋に響き渡り、上西門院と小宰相たちは、各々手と口を止めて彼女を見つめる。

「何事だ」

 姉として、弟である後白河法皇が心配なのだろう。上西門院はいつにも増して険しい声で問う。

 女房はそんな上西門院に気付いたのか、慌てて跪くと、緊迫した様子で顔を上げ、息を呑んで話し始めた。

「法皇様が……石清水八幡に御幸なされました……!」

「なんと、それは……!」

 思わず口元を押さえて目を剥いた上西門院。

 それを聞いた小宰相たち女房も、それぞれ一瞬遅れて浮き足だった。

 御幸する行為は決して悪いことではないが、今は重盛の忌中。

 全ての者たちは、御幸を控えているのだ。

 その最中、今回の後白河法皇の軽はずみな振る舞い。

 それは、すぐに内裏に大きな衝撃となって知れ渡ることになるだろう。

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