あなたに捧ぐ潮風のうた
故人に不義な行為を働いた後白河法皇に、上西門院は姉とはいえ深い疑念を抱いたようだ。
「重盛様の喪も明けてはおらぬというのに……法皇様は何をお考えなのか……。重盛様を──平家を軽んじておいでか」
上西門院は、頭を抱え、固く目を瞑る。
小宰相は主人に何と声を掛けるべきか分からなかった。
他の女房らは狼狽するばかりである。
思わず耳を疑う状況に動揺を隠せないでいた小宰相だが、事の重大さは十分な程に理解していた。
「これが清盛様のお耳に入りでもすれば、どうなることか……。法皇様も重々ご存知でいらっしゃることだろうに、何故さようなことをなさったものか……」
苦しげに言葉を絞り出す上西門院を見て、小宰相は表情を硬くした。
(おそらくご存知の上で行われたことでしょう。きっと、このような時だからこそ、平家一門と天皇家、どちらが上に立っている側なのかをお示しなのでは……)