あなたに捧ぐ潮風のうた
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不吉な辻風が都にて吹き荒れた日から幾ばくか経過したある日、治承三(1179)年十月九日のことである。
この日から清涼殿にて主上と公卿らが官職を選定して任官する除目(じもく)が執り行われることになっていた。
除目とは、前の古い官職を取り除き、人事の目録に名前と新たな官職を書き記す重要な年中行事である。
除目の季節になると、かつてかの清少納言が枕草子で記したように、ある者は自分が拝する官職に期待を寄せ、ある者は不安を覚える。
これで今後の出世が決まっていくのだから誰しも気になるというものだ。官職を得ることが出来なければ、暮らしは当然ながら貧しくなり、妻や子供を養うことは難しい。
通盛はこれまで越前守を務めていた。
越前は、平家に与えられた最も重要な知行国である。次に越前守に就くのは、順当に決定が下れば、引き続き通盛か平家一門の誰かであると考えられる。
通盛は六波羅の門脇家の屋敷で除目の知らせを待っていた。
今頃は父教盛ら公卿の者たちが多くの申文を見ながら、ああでもないこうでもないと言いながら任官を議論しているころであろう。