あなたに捧ぐ潮風のうた
弟の教経が同じく暇を持て余していたらしく部屋にやってきていた。
「――兄上、落ち着かれないのですか」
「そんなことはない」
教経の言葉に通盛は首を振ったが、教経は「お見通しだ」とばかりに片眉をあげた。
「最近の除目など平家ために行われるようなもの。どんと構えて待っていらっしゃればよろしいのでは」
「……言葉が過ぎるぞ」
「言葉をいくら取り繕っても事実は事実でしょう」
弟の辛辣な言葉に通盛は重いため息を吐いた。
元は身分の低い武門である平家は、数々の苦難を乗り越えて栄華を掴んだのだ。
その平家一門の繁栄により、一族は勿論郎党に至るまで出世を遂げている。今や平家の思うがままであるのは間違いではない。
教経の言葉は褒められたものではないが、確かに否定できない。否定はしないが、教経の言葉は聞いている通盛はあまり良い気持ちがしなかった。
顔を背けると、教経も流石に弁えているらしく、それ以上除目について何も言わなかった。