あなたに捧ぐ潮風のうた


 それからは、兄弟で他愛もない世間話に興じていると、話は通盛にまつわる「噂」になった。

「そういえば兄上、妙な噂を耳にしたのですが。確か兄上は上西門院様付きの女房と関係を持っているとか。本当ですか」

 普段は、普段は眼光鋭い弟の目は、今は楽しげに輝いていた。

 通盛は、横目で彼を軽く睨む。

「……関係は、持っていない。和歌は贈ったが。……それをどこで耳にした。重衡か?」

「はい」

 問い詰めるとあっさり犯人を白状した弟の様子に、通盛は肩を落とした。

「何故ああも口が軽いのか……。そもそもあいつに彼女のことについて何か言った覚えはないのに何故知っているのか」

「女房たちが噂していたと伺いました」

「あの女たらしめ」

 通盛は顔をしかめて従兄弟を恨めしく思った。
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