あなたに捧ぐ潮風のうた
明け方、宮中から父教盛が門脇家の屋敷に帰宅した。
父は除目の議論で疲弊したのか随分と顔色が優れなかった。
待ちに待っていた除目の知らせを聞こうと通盛始め兄弟が詰め寄り、郎党らも耳をそばだてる。
「まずいことになった」
着替えもせぬ束帯姿のまま、父は渋い顔をして通盛たちに話し始めた。
除目で問題があったのは、権中納言の任官と通盛が国司を務める越前国の処遇についてである。
権中納言についてだが、これにはもともと清盛が推薦する有力な任官候補者がいた。
今は亡き盛子の息子で、藤原基通という者である。つまり清盛の孫にあたる。
二十歳とまだ若いが、血筋も地位も官暦も妥当であり、異論はどこからも出ていなかったはずだ。
清盛にとっては、基通が権中納言という高い官職に就けば、将来的に摂関家における氏長者(うじのちょうじゃ)となる可能性が高く、その恩恵を狙って推薦をしたのだろう。
平家の権力を強めるため、彼が考えそうなことであった。