あなたに捧ぐ潮風のうた


 しかし、実際に任命されたのは、関白基房の九歳の子息であった。

 地位も年齢も上である基通を飛び越して、基房の年端もいかない子供が権中納言になってしまったのだ。

 除目でどのような議論がされたのか疑問であるが、明らかに平家を敵視し、そればかりかあまりに無理のある人事を隠そうともしない関白に、通盛は呆れて困惑するばかりであった。

 清盛が推薦していた基通を蔑ろにして九歳の子供を任官したことは、清盛だけではなく平家の顔に泥を塗ったことと同義であり、清盛がこのことを聞きつけたが最後、怒り狂うのではないかと通盛は想像して身を震わせた。

 そして、平家の最も重要な国の一つである越前国も、全く平家と関係のない者が国司に任命されたのだった。

「越前は亡き重盛様に与えられた平家に受け継がれるべき知行国で御座います。もうずっと平家の知行国であるというのに今になって敢えて変える意図とは……? 父上、本当にそのような任官がされたのでございますか」

「間違いない。関白殿と法皇様のお考えで我等が口を挿む余地も与えて下さらず、既に決まってしまったことだ。重盛が亡くなって以来、そのような態度を隠そうともしなくなった」

 父教盛は深いため息をついて頷いた。

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