あなたに捧ぐ潮風のうた
この「殿下乗合」事件以降、平家と基房との関係は悪化の一途を辿っていた。
今回の天をも恐れぬ人事は、基房の平家に対する恨みが募った結果である。
そう語る者もいれば、横暴な平家に一泡吹かせる正しい人事が行われたと納得して笑う者、顔をしかめる者、清盛の出方を気にする者もいた。
その除目の知らせは、我が子重盛を失った悲しみから福原に引きこもっていた清盛にも届いた。
平家や亡き重盛が蔑ろにされていると感じた清盛は、後白河法皇と藤原基房を恨み、数千騎の軍勢と共に武器を取って立ち上がる。
「──都に参るぞ。我ら平家一門が朝廷に尽くした数々、しかと法皇様に思い出して頂かねばならぬ……!」
清盛たち数千騎の軍勢は、福原から出兵して数日で都に入ると、平家の屋敷が建ち並ぶ六波羅に留まる。
出家し、政治の表舞台から姿を消していた清盛が久々に姿を現したことで、都は息をひそめたように静まり返る。
その話は直ぐに人々に知れ渡り、後白河法皇や基房の知るところとなった。