あなたに捧ぐ潮風のうた
その様子をぼんやりと見つめていた孝子だが、女房装束に着替えることが出来るよう、父が配慮してくれたのだと悟った。
「さあ、姫様。奥で着替えましょう」
「ええ」
誉ある女房への就任、父の期待、乳母の愛情。そして、煌びやかな女房装束。
孝子は心が躍り、顔を綻ばせて呉葉に頷いた。
昼間でも、部屋の更に奥にある部屋は薄暗かったが、先程まで暗闇に感じた鬱屈とした気持ちは霧散し、今は逆にその薄暗さに胸が高鳴った。
呉葉が手伝いの侍女から女房装束を受け取ると、代わりに侍女は外と内を分かつ長い御簾を下ろす。
孝子は呉葉に手伝われながら、今着ている着物を脱いで装束を身に纏う。何枚も薄い着物を重ねて着るのである。
全ての着物を身に纏った頃には、孝子はすっかり疲れ果てていた。襲(かさね)の装束は非常に重く、ただその場に立っているだけで一苦労である。
この恰好で動くならば何をするにつけても重労働だろう、と孝子は辟易とした。