あなたに捧ぐ潮風のうた
出仕が終わった夜、通盛と教経は様子を窺うために、六波羅にある清盛の屋敷にやってきた。
法衣に鎧を身に着け、腰に刀を携えて中庭に佇む清盛は、まったくの無表情であったが、その目には怒りと悲しみが宿っている。
やって来たは良いものの、掛ける言葉が見つからず、通盛と教経はただ遠くから息を殺して清盛の横顔をじっと見つめるのみであった。
「兄上、やはり帰りませぬか」
「何? 今来たばかりだぞ」
「心配されるのは分かりますが……わたしたちが此処に来ても、どうすることも出来ませぬ」
冷静な顔で窘めるように言う教経に、通盛は納得が行かず「それはそうかもしれぬが……」と低い声音で小さく呟いた。
(これでは、わたしが聞き分けのない弟のようではないか……)
教経は自身の顎に手を当てながら、清盛を注視して何かを考えているようである。
彼の真顔からは何も読み取れない。
いや、何かを考えているように見えて、その実、何も考えていないのが教経である。