あなたに捧ぐ潮風のうた
その時、清盛がこちらを向いて声を上げた。
「──通盛と教経、何をやっておる。隠れておらずに早ようこちらに参れ!」
……気づかれていた。弾かれたように背筋を伸ばした通盛は、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでくる叔父に冷や汗を垂らした。
随分と歳をとったとはいえ、頭の回転は未だ衰えない老獪な清盛は、通盛にとっては気後れしてしまう存在だ。
躊躇した通盛は、後ろにいる教経に助けを求めるつもりで視線をやるが、彼は素知らぬ顔をして目を伏せていた。
そもそも、考えてみれば、此処に来たいと言ったのは自分なのだ。
教経はそれに付き合わされただけである。
教経に助けを求めるのは、お門違いというものであり、兄として情けない行動だ。
大きくゆっくりと夜の冷たい空気を吸った通盛は、頭が徐々に冴えてくるのを感じ、清盛の眼前に立つ。