あなたに捧ぐ潮風のうた
宗盛が必死に訴える様子に、清盛は心動かされたのか、どうやら納得がいったらしく「そうだな」と何度も頷いた。
そして、清盛は屋敷の中に向かって「妙蓮!」と法師のような名前を叫ぶ。
「……はい」
静かな声音と共に表れたのは、先程の少年であった。
彼は再び清盛の足元に跪く。
妙蓮という名前なのか、と通盛は僅かな驚きをもって彼を見る。まだ幼い少年には似合わない名前であった。
妙蓮の顔を正面から見ると、どこにでも居そうな平凡な顔だと感じた。
少年らしく肌が浅黒いが、それ以外は奇妙な程に印象に残らない。
すれ違ったとしても、特別何も感じないだろう。
「静憲を連れて参れ」
「はい」
「武器を忍ばせておらぬか、十分に確かめてから屋敷に上げよ。法師と言えど、法皇様の側近であるならば油断ならぬ」
「お心のままに」と小さく頷いた妙蓮は、以前と同じく静かに去っていく。
妙蓮は空気そのものに溶け込んで存在を感じない。通盛、恐らく教経も、違和感を覚えていた。