あなたに捧ぐ潮風のうた


 しばらくすると、妙蓮に導かれて一人の法師が清盛の元に歩み寄ってくる。

 ――静憲法印だ。

 彼の父は、かつて清盛と共に朝廷内で権勢を誇った信西という名の僧であった。

 だが、息子たちを主な地位につけるなどして周囲の反感を買ったため、平治の乱で滅ぼされてしまった。

 その息子の静憲は、一度は都から流されたが、赦しを得て都に舞い戻り、以後は後白河法皇に仕えているのである。

 僧として最高位にある法印である静憲は、後白河法皇の絶大なる信頼を得ており、ことあるごとに使者として主の言葉を伝えている。

 清盛の少し手前で立ち止まった彼は、そっと目を伏せて丁寧に頭を下げた。

 その様子を見た清盛は、好印象を受けたのだろう、表情を和らげて「静憲、久しいな」と穏やかに言った。

「はい。お久しぶりで御座います」

「のう、静憲よ。わしの話を聞いてはくれぬか」

 いつになく優しい顔をした清盛に、静憲はそうなることを予期していたように、表情を全く変えずに「はい」と頷いた。

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