あなたに捧ぐ潮風のうた
「先日、長男の重盛が亡くなり、わしは涙を堪えきれない日々を送っている。重盛ほど朝廷に仕えた者はいないのに、朝廷は重盛と平家を蔑ろになさっている」
清盛は静かに続ける。
「法皇様は、我らが越前国を召し上げ、重盛の忌中に石清水八幡宮に御幸なさった。そして、何より許しがたいのは関白殿だ。あまりにもおかしな除目だとは思わぬか、静憲。権中納言に任ぜられたのは関白の幼きご子息の師家殿であるというが、まだ九歳ではないか。九歳の幼子を権中納言にしてどうしようというのだ。これが妥当だというならわしに納得がいく説明をしてみせよ」
一言一句、区切るように言う清盛は、一見冷静であったが、何人たりとも口出させない威厳があった。
「以前、平家一門を滅ぼさんとする鹿ヶ谷の陰謀があったのも、法皇様のご意向があったのではないかと囁かれておるが、二度目とあらばもはや偶然ではないようだな」
「まさか。あの鹿ヶ谷の一件が法皇様のご意向ゆえにと仰せですか。貴方様は信ずるべきお方を疑い、たかが噂を信じていらっしゃるように思われます」
恐ろしい清盛にも全く物怖じせず、静憲ははっきりとった。