あなたに捧ぐ潮風のうた
それを聞いた通盛は思わず顔をひきつらせる。
今の清盛は一見、冷静で穏やかに見えるのだが、明らかな怒気を孕んでいる。
平家の者でさえ、こうなってしまったからには恐ろしさが先立って口出しはしない。
怖いもの知らずなのか。ただのやせ我慢なら清盛の手前、大したものである。
「……貴方様は満足という言葉をご存知ないので御座いますか。法皇様は貴方様の勲功を十分に讃えていらっしゃいます。一門、他の一族よりも格別の恩を受けながら、法皇様を討とうとなさるのは、臣下の道に反していらっしゃる」
その言葉に目を見開いた清盛がゆっくりと刀を抜いた。その音に反応し、宗盛が叫ぶ。
「父上、お止め下さい……!」
宗盛の制止の声も届かない。
病気に罹った六十の法師とは思えない腕の力で刀を振り上げた清盛は、風を切り裂きながら静憲の首に刀をあてがい、皮一枚のところで止めた。