あなたに捧ぐ潮風のうた

 気が抜けてため息を吐く通盛だったが、背後から感じる怒気に思わず身を竦ませる。

 恐る恐る背後を振り返ると、激しい怒気には似合わず、満面の笑みを浮かべる宗盛が立っていた。

「何故そなたらが此処におる」

 その瞬間、気配を消して逃げ出そうとする教経の服を、すんでのところで捕まえた通盛。

 精一杯の愛想笑いを浮かべながら、宗盛の冷ややかな視線を受け止める。

「いえ、我らは……」

「兄上が見に行きたいと仰ったものですから」

 無表情で言い放つ教経に、通盛は右頬が引きつってしまう。

「……ほお。通盛が、な」

 無情にも弟に売られてしまった兄は、恐ろしい笑みを浮かべた従兄に睨まれて「ははは」と乾いた笑みを漏らした。

「大方、下らぬ好奇心に任せて見に来たのであろう! 全く童のごとき真似をしおって……! 来たのならば来たで、何故父上をお止めせぬ!」

 なるほど、怒りの原因は、通盛たちが清盛を止めなかったことにあるらしい。

 だが、刀を佩いた清盛を止められる者は、滅多にいないだろう。

 少なくとも、通盛は無謀なことは極力しない質である。無論、教経もそれは変わりない。

 だが、ここでは素直に謝ることが最善だと気付いた通盛は、永遠に続くのではないかと思うほどに長い説教を、何度も謝罪を挟みながら聞き流していた。

「申し訳御座いません」

「……さっさと帰れ」

 しかめっ面の宗盛は、顎で入り口の門を指し示すと、通盛たちに早く帰ることを要求する。
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