あなたに捧ぐ潮風のうた
「……赤の禿、とは……?」
菊王丸は話の腰を折ってしまうことに、申し訳無さそうに身を縮めていたが、通盛は気にした素振りもなく答えた。
「ああ、確かにお前は知らぬやもしれぬ。赤の禿とは、その名の通り赤い直垂を着て、京の市中を歩き回る童たちのことだ」
「何の為に歩き回るのですか?」
「彼らは叔父上の命を受けているのだ。市中で平家を悪く言う者があれば、仲間を呼び寄せて家財を荒らし、捕縛して叔父上の前に突き出す」
「総数にして、三百だ」
武士の血が騒ぐのか、教経が妙蓮の消えた方を何度も見やりながら、短く呟く。
「清盛様の童が三百も!?」
菊王丸は目を剥いて叫んだ。
「ああ。赤の禿は元は孤児であったり捨てられていた童に過ぎないが、背後には平家が付いている。だから下級官吏から高官まで皆が恐れ、容認しているのだ」
「お前も痛い目に遭いたくなくば、不用心に平家を悪く言わぬことだ」
教経は菊王丸を視界に入れることすらなく、淡々とそう言った。
それを聞いた菊王丸は、一瞬の内に顔色を悪くして、何度も何度も首を縦に振った。
「──私は平家の方々を悪く申したりはいたしませぬ。ですが、市中にさように恐ろしげなる者たちがいたとは……」
「ああ。平家の──つまり、叔父上の手のものは数え切れない。だがその反面、平家に反感を持つ者も多い」