あなたに捧ぐ潮風のうた

「教経、口が過ぎる」

 咎めるように言う通盛に対し、険しい表情の教経は「事実を申したまで」と強い口調で兄の苦言を一蹴した。

 平家の勢力は、今や摂関家をも凌ぐと言っても過言ではない。

 高倉天皇と平家の中宮である時子の間に生まれた皇子は、恐らくは天皇になるであろうと予想できる。

 平家は甚だしい栄華を手に入れた、その分これまで時勢に乗って栄えていた者たちの反感もまた、甚だしい。

「その反感を武力で制圧なさる叔父上や平家に、更なる不満が起こるのは当然のことでしょう」

「……」

 通盛は返す言葉も見つからなかった。

「しかし、私は叔父上の行動をおかしなことだとは思いませぬ。我ら平家のような武士の本分とは、戦うことにございますゆえ」

 武力で築き上げたものを、武力を以て守る。

 実は、教経がそれを一番良く分かっているのかもしれない。

 平家が元は武士であり、かつては貴族の所有物として使われてきたことは知っている。

 しかし、生まれた時には清盛という偉大な棟梁が存在し、平家は最早武士ではなく貴族の地位をも手に入れていた。

 武士の本分は戦うこと。

 そう、平家はただの貴族ではない。この国で並ぶものがない実力を持った貴族だ。

 その平家が兵を挙げればどうなってしまうのか────。

 通盛がため息を吐くと、牛車が再び音を立てて大きく揺れる。

 今夜は眠れそうになかった。
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