あなたに捧ぐ潮風のうた
元関白となった基房に、その場にいた平家の者の一人が凍てつくような目を向けて言った。
「太宰府は宋との貿易における重要な拠点でもございます。優秀な貴殿に任せたいという主上の仰せなのでしょう。確かに少し僻地ではありますが、自然も美しく長閑な暮らしが出来ましょうぞ」
「ふ、ふざけるのも大概にしろ!」
「何を仰いますか、太宰権帥どの。これは主上の御意志、全ては天の思し召しでございますぞ」
平家の者がそう言って凄んでみせると、基房は明らかに怯えを見せた。
人々は口を閉ざしていた。もう、批判も、賛同も、懐疑も──誰一人として言葉を発する者はいなかった。
再び政務官が読み上げる流罪の大臣の名前に、おのが名前が含まれていないことを、人々はただひたすらに願うことしか出来なかった。