あなたに捧ぐ潮風のうた

「──宜しいでしょうか、小宰相さま」

 部屋の入り口の方で女の声がした。

 小宰相ははっとして背筋を伸ばし、居住まいを整える。このような見苦しいところを他の者に見られる訳にはいかない。

 はい、と静かに返事をすると、入り口に立っていた女は、失礼いたします、と丁寧に答えて部屋に入ってきた。

 その女には見覚えがあった。安芸(あき)と呼ばれている上西門院付きの下臈(身分が低い)女房だ。

 小宰相と殆ど同じ歳で、これまで何度か話をしたこともある。幼い外見と明るい性格があいまって、女房たちのなかの妹のような存在だ。

「小宰相さま、お身体は大丈夫でしょうか。突然お倒れになって、上西門院さまも大層心配なさっておいででした」

「ええ、大丈夫よ。そう、やはりわたくしは倒れたのね。上西門院様も折角笑顔をお見せになられたばかりなのに……ご迷惑をかけてしまったわ」

 女房にも御心を砕くお方だから、と小宰相は一つため息を吐く。
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