あなたに捧ぐ潮風のうた
安芸は心配そうな表情のまま、部屋の外にいた下女を呼び入れた。水が入った盆を抱えて入ってきた下女を不思議に思っていた小宰相だったが、安芸は小さく微笑んで「お倒れになった時に、頭を打ってしまわれたでしょう」と言った。
確かに、と小宰相は頭に意識をやった。先程触った時に腫れて熱を持っている感覚があった。
下女は水に布を浸して絞り、小宰相の後頭部にそっと当てた。冷やされた布が患部の熱を奪っていくのがわかる。
「ありがとう、安芸」
そう言うと彼女は嬉しそうに眩しく笑った。
あなたも、と下女にも言うと、彼女は無言で頭を垂れた。本来の仕事ではないのにも関わらず、冬の水を触らせていることに多少の申し訳なさを感じていた。
「最近、小宰相さまは上西門院さまに付きっきりでいらっしゃったので、きっと疲れが出てしまわれたのだと思います」
「……そうかもしれないわね。でも他の女房の方々もそれは同じだったのにわたくしだけ倒れるなんて……」
小宰相はうつむいて唇を噛み締めた。
上西門院の笑顔のために一生懸命に働いたと言えば聞こえはいいが、結局は自分の管理がなっていなかった。誰かに仕える以前の問題だ。
「『休んでいてよい』との上西門院さまの仰せです」
「……そう」
小宰相は小さく頷いた。