あなたに捧ぐ潮風のうた
上西門院様に呆れられてしまっていたら、と小宰相が暗い気持ちになっていると、安芸はにっこりと明るく笑って言う。
「わたくしが小宰相さまのお世話をいたしますので、小宰相さまは暫しお休みになってください」
「貴女が?」
「はい、上西門院さまに許可をいただきましたので」
小宰相は何を言うべきか迷ってまじまじと安芸の顔を見つめた。
一体、何のために。そのような疑念が顔に出ていたのであろうか、安芸は少し苦笑いした。
「わたくし、一度小宰相さまとお話がしたくって。この機を逃さん!とばかりに上西門院さまに申し出てしまいました」
安芸のその屈託のない笑顔を見ると、小宰相の肩からも力が抜けた。
(とても優しい子ね。誰とも仲良くできる才能があるのかもしれないわ。だからこそ、誰からも好かれているのね)
小宰相は日頃あまり他の女房たちとは私的に関わらない。仲が悪いわけではなく仕事の話は勿論のこと必要があれば世間話にも興じるが、他の女房たちとは少し距離があった。仕事仲間は仕事仲間に過ぎす、友人ではないと思っているからだ。
安芸はそんな小宰相を気遣ったのであろうか。無用な気遣いではあるが、何にせよ小宰相を気遣って世話を申し出たのは間違いなく、小宰相はこのお人好しの同僚が少し好きになった。