あなたに捧ぐ潮風のうた
当初はそのような様子の安芸に何も思わなかった小宰相だったが、次第に同僚に対する優しさというには少々過ぎたものではないかと思い始めていた。
何故ここまで自分に優しく気遣ってくれるのか、不思議に思って安芸に尋ねてみると、彼女は少し照れたように微笑んだ。
「去年のことです、わたくしがまだ上西門院様付きの女房となった間もない頃でした。小宰相が不慣れなわたくしを時折助けてくださり、声を掛けていただいておりました」
「そうだったかしら。他の女房の方々もそれは同じだったと思うけれど」
何か特別なことでもしただろうか。
不思議に思って首を傾げたが、安芸は何も言わず、そっと微笑むだけであった。
彼女がそう思うならそうだったのだろう、と小宰相は自分を納得させることにして、小宰相も何も尋ねなかった。
その日から、小宰相は安芸とよく話をするようになった。
優しく穏やかな口ぶりの安芸に安心感を抱き、時間があればいろいろと話をした。仕事のこと、同僚の事、家族のこと、趣味、恋愛……。
話題は尽きることが無く、二人はいつしか友人と呼べる存在となり、お互いに様々な相談もするようになった。