あなたに捧ぐ潮風のうた
上西門院は小宰相を説得しようとしていた。
何故かは分からないが、度々上西門院はこうして小宰相に話をして通盛を受け入れるようにさり気なく言ってくるのである。
上西門院が気まぐれでそのような提案をしているとは思えなかった。気まぐれにしては回数も多く、何度も諦めずに説得をしているからである。
これは小宰相の推測であるが、通盛に頼まれているか、あるいは小宰相と通盛が結ばれることで上西門院になんらかの利益がもたらされるのではないかということである。
現在、平家は益々力を増しており、並ぶものはない。
法皇が幽閉された今、上西門院が少しでも平家と良い繋がりを持ちたいと考え、何らかの対策を練ろうとしているとしてもおかしくはない。
「……わたくしは通盛様のことをろくに存じ上げません」
「これから知ればよいではないか。断るにも受けるにも、まずは二人で話してみないことには相手を知ることは出来ないだろう」
今日の上西門院はなかなか諦めなかった。その後も主人から何度も説得され、その思いを無碍にできるほど小宰相は人でなしではなかった。
小宰相が渋々頷くと、今後は通盛を度々御所に呼ぶことに決めたらしく、彼が来た際は相手をするようにと告げられた。