あなたに捧ぐ潮風のうた
 小宰相は自室ではなく女房たち共通の部屋に戻った。そこにはやはり安芸が座っていた。

 上西門院から呼び止められた際に、安芸が心配そうな表情で見つめていたのに気付いていたからである。きっと彼女は小宰相のことを案じて待っているだろうと思ったのだった。

 小宰相は彼女に相談することにした。

 平家の公達から恋文を受け取って久しいことは安芸も噂で知っていたようである。

「上西門院様の仰るように、会ってみられたら如何でしょうか。もしかしたら、わたくしたちみたいに友人になれるかもしれないし、生涯の伴侶になれるかもしれませんよ。嫌な時には嫌と仰ったら上西門院様も無理強いはなさりませんよ」

「……そうね」

 小宰相は彼女の言葉に頷いた。

 暗い表情をしている小宰相に気付いたのか、安芸はおどけたように笑った。

「わたくし個人なら喜んでお話をお受けするのになあ」

 小宰相は彼女につられて笑った。

 案外と、これは良い機会かもしれないとも思っていた。

 男性といえば、乳兄弟である義則以外とはほとんど接した機会がほとんどない。今後のためにも、彼以外の男性と接してみることは決して悪い話ではない。そう思ったからだ。
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