あなたに捧ぐ潮風のうた
案外その機会は早くやってきた。
年明け前頃、上西門院は通盛と重衡の二人を御所に呼んだ。
彼らを御所に呼んだ名目は、越前守に加えて中宮徳子付きの中宮亮に兼任された通盛と、言仁親王付きの春宮亮に再任された重衡の二人から、様々な話を聞くためとされた。
通盛と重衡は従兄弟同士で仲が良く、それぞれが中宮と親王の世話役であるため、仕事の話をするにしても話が弾むだろうと踏んだのである。
特に、重衡は女たちからの人気が高く、重衡を呼べば女房たちが喜ぶだろうと上西門院が思ってのことであった。
案の定、御所に重衡が参上するという知らせを聞いた女房たちは色めき立った。
その様子を他人事のように眺めていた小宰相は、重衡と通盛の人気の格差がいっそ哀れなほどだと思いながら、彼らの御所参上を待った。
到着の知らせを聞き、牛車から降りてくる束帯姿の公達たちを見るために女房らは部屋から身を乗り出して目を凝らし、息を呑んで見つめた。
重衡が女房たちの姿に気付いて手を振ると、女房たちはその蕩けるような笑顔に悲鳴に近い声を上げていた。