あなたに捧ぐ潮風のうた
「それは良い報せだ」
上西門院は微笑んで鷹揚に頷いた。
小宰相は主人と平家の公達二人が話す様子を他の女房たちと共に眺めていた。
目を伏せて微笑みながら中宮の様子を語る通盛は、重衡のような分かりやすい明るさ、華やかさといったものはなくとも、菖蒲に喩えられるのも頷ける暖かな穏やかさを持っていた。
まるで陽だまりのようだったと小宰相は思った。
口から出る言葉は洗練されており、上西門院と比較しても遜色ない。佇まいも当然のことながら申し分なかった。
自分はこのような立派な人から恋文を貰い、それを無視し続けてるのかと思うと、小宰相は申し訳なさと恥ずかしさを覚えた。
話はお互いの近況になると、通盛はそれまでの滞りのない会話から一転、言葉に詰まったのが分かった。
上西門院が不思議に思った様子で尋ねると、口籠もる通盛に代わって重衡が答えた。
「最近の通盛は、縁談の話が次から次に舞い込んでその対処に追われているのです」